Special Interview
髙橋隼人(PELLEGRINO)×オーブンセーフスキレット
調理器具を選ぶ基準は必然性
使いたいのは、素材を引き立たせる道具
使いたいのは、素材を引き立たせる道具
予約困難で伝説的な名店のひとつとして名を連ね、その独自の感性から生み出す料理で、訪れる人々を感動させ続ける『PELLEGRINO(ペレグリーノ)』の髙橋隼人シェフ。食材の調達から調理、サーブに至るまですべて自身で行うのは、食材のよさを最大限に引き出し、お客さまに提供したいという強い想いから。そんな髙橋シェフの信念を一皿に表現するために、バーミキュラの製品は欠かせない。髙橋シェフが抱く料理観と、バーミキュラの製品との親和性について伺いました。
最優先したいのは、食材の香りを守ること。
そのための道具選びに妥協はありません。
「調理器具を選ぶときは、使う必然性を考えながら」
髙橋シェフにとって、調理器具は、料理の味わいを左右する要となる存在だ。
「極力、素材の味、香りを損なわずに調理をするために、調理器具の選択はとても重要です。バーミキュラの製品にはすべて、表面にガラス製のホーローコーティングが施されている。ガラスは素材の味、香りを奪わない性質を持っていて、自分の料理ととても相性がいい。一方で、素材の香り、味を奪ってしまう金属製のものは使用しないようにしています」
「徹底的にやらないと意味がなくなってしまう」
その信念は、調理の間にとどまらず、料理がお客さんの口に運ばれるまで貫かれる。『PELLEGRINO』では、カトラリーもホーロー製でそろえる徹底ぶり。素材そのものの味、香りを守ることを最重要視している。
「香りを損なわない、という面だけを考慮してガラス製の調理器具を使うと、火入れの面が不安定に。なので、熱伝導のいい鋳物にガラス製のホーローを吹きかけているバーミキュラの調理器具たちは最強です。火入れは安定しつつ、香りも守られる」
並々ならぬこだわりで、ひとつひとつの食材と向き合い、素材本来の香りと旨みを最大限に引き出した料理で、人々を魅了し続ける。数多の料理店の中でも類を見ないのが『PELLEGRINO』だ。多くの食通たちがその味を体感したいと渇望する一方で、最高のパフォーマンスでお客さまをもてなすために、開店当初から一人体制を貫く。席数はわずか6席。厨房の方を向いて横一列に並び、さながらライブハウスのような配置で、訪れた人々は髙橋シェフの手さばきを鑑賞しながら料理を楽しむ。現在の営業スタイルは週4日間、昼と夜のコースを交互に行い、各日おまかせコースの1回転のみ(2022年7月現在)。シンプルでありながら新感覚の味を生み出す調理で、全国から熱視線を集めてやまない名店だ。
「厳選した素晴らしい素材を、最高の調理法で仕上げたい。同じ料理は何回も作ることができますが、今こうして目の前にある素材はこれっきり。1回1回心を込めて調理しないといけないなと思うと、すべて自分で行うかたちに落ち着きました」
「昼のほうが都合がいいという方と、夜のほうがいいという方がいるので、昼の部と夜の部を交代で行っています」と、その中でも、お客さんの意思を汲み取り、足並みをそろえる。
香りを損なわずに揚げ物の調理も。
オーブンセーフスキレットがあれば思い描いた火入れができる。
「実は、レシピというレシピは昨年すべて捨ててしまい、今は何も残っていません。レシピに縛られてしまってはいけないと思って、昔の方法を記してあるものは一度処分しました」
素材を手にしたときに、その都度どうしたら美味しく調理できるかを考えるのが、本当の料理なのではないかーー
それが、髙橋シェフが行き着いた料理観だ。
「これから作るのは、コトレッタ。まずは、肉から脂身を外して細かく刻み、刻んだ脂身から油を抽出します。脂身を一度外すのは、そのまま食べると重いため。脂身の味と香りを損なわずに油を抽出して、赤身のカツに弱火でじっくりとその香りと味をうつせたら、豚の香りと味が活きた美味しいコトレッタを焼き上げられます」
『コトレッタ』とは、ミラノ風のカツレツ。豚ロースに粒子の細かいパン粉をまぶして揚げ焼きにする、イタリアの郷土料理のひとつだ。
「油の抽出は、オーブンセーフスキレットで弱火にかけ続けて、汗をかくようにじんわりと。極力弱火で仕上げたいのは、豚の味を損なわずに丁寧に抽出したいから。こうして炒めている間にも、豚の脂のいい香りが立ちのぼってきます。温度を急激に上げず、汗をかかせるように調理をすると、素材の香り、旨みが壊れにくい。オーブンセーフスキレットなら、そういう調理を可能にしてくれます」
赤身肉に卵液をつけて、パン粉をまぶしていく工程では、肉をこまめに触りながら、ひとつひとつの作業を丁寧に進めていく。食材と対話しながら、その都度、パン粉のつけ具合や、火入れの温度、時間の程度を決めていく。
「弱火で時間をかけて火入れを行うことができれば、揚げ物であっても、食材の香り、味を守れます。オーブンセーフスキレットをはじめ、バーミキュラの製品は鋳物製なので、熱伝導がいい。弱火でも揚げ焼きができるところも、魅力です。ふつうのフライパンでは、このような調理はできません。豚肉は、赤身のみだと、目をつぶって食べたら何の肉かわからないくらい軽い味わい。そのため、脂身を外したカツに、豚の脂から抽出した油をまとわせながらじっくりと焼き上げていきます」
そう話すと、もうひとつの料理『パプリカのペペロナータ』の様子をうかがいに、厨房の奥へ。
オーブンの中から出てきたのは、まるまるとしたパプリカを所狭しと敷き詰めたオーブンセーフスキレットだ。
「自分の料理にとって、香りが占める割合はとても大きい。店の規模を小さくしているのは、厨房からの香りを感じてもらいたいという想いから。パプリカは、強火で焼いてしまうと焼き色がつき、本来の香りよりも香ばしい香りが勝ってしまう。なるべく素材本来の香りを留めておいて、最終的に焼いた香りをつけるか、つけないか、選択肢を残しておきたい」
しんなりしたパプリカに蓋をすると、再びオーブンへ。
オーブンセーフスキレットでなければこの味は引き出せなかった。
低温で長時間調理する料理にとって、バーミキュラは最適な調理器具。
160分後、オーブンを開けると、パプリカの濃く甘い香りが、厨房から客席へと抜ける。ほどなくして、店いっぱいに香りが充満する。オーブンセーフスキレットの中には、パプリカの甘みが凝縮した濃厚な水分がひたひたに。
「ここから、この水分がなくなるまで、さらに火を入れてもいいですね。焼き色をつけることなく、身の中に水分を戻していくのは難しい作業ですが、オーブンセーフスキレットならできると思います。このままスープとして飲んでも、もちろん美味しい」
スープをひとさじ口に含むと、「パプリカの純粋な美味しさがつまった味わい。こんなにもパプリカの旨みが出たのは、オーブンセーフスキレットで調理したからですね」としみじみ。ここにも料理人の想いに応える調理器具の必然がある。
「営業中にここまで時間をかけることは難しいですが、食材をいかにきれいに美味しく食べるか、ということを念頭に置いて調理したい。そのために前準備は抜かりなく行います。優しく調理することはとても需要なこと」
食材を余すことなく味わいきるために時間も労力も惜しまない、髙橋シェフならではの一品が完成した。
素材本来の味わいを最大限に引き出し、香りを損なわない。
バーミキュラの製品で調理する必然がある。
厨房の棚に目を向けると、オーブンセーフスキレットのほかにも、ライスポットや鍋がずらりと並ぶ。
そう、髙橋シェフの料理に欠かせないのが、バーミキュラの製品たちだ。
はじめてバーミキュラの製品を手に取ったのは、ライスポットが発売された4年前。きっかけは、料理人仲間からの推薦だった。
「初めて作ったのは、牛肉料理。ライスポットは、30~95℃まで温度を1℃きざみで調節できるので、少しずつ温度を変えて、最も肉の香りと旨みを損なわずに調理ができる温度と時間を計測してみました。それまでは、低温で長時間火入れを行うことが何より重要だと考えていた。ですが、牛肉の場合は、鍋の中が十分に対流しないと旨みを引き出すことが難しく、調理をするときの温度は最低限高いほうがいい、ということがわかりました」
「お客さんの前で、バーミキュラのライスポットを使って素材を温めることもあります。よく行うのはアワビの蒸し料理。ライスポットでアワビを蒸すと、アワビの旨みがよく引き出されて、ふっくらとした最高の仕上がりに。アワビの場合、スチームコンベクションオーブンなどを使い、風にあてて調理をすると風味が損なわれてしまいます。ライスポットで、温度管理を行いながら、無風状態で素材にストレスをかけず蒸し上げる調理法が気に入っています」
美味しくても、誰かをハッピーにできなかったら意味がない。
料理は食べてもらう相手のために作るもの。
バーミキュラの鍋でも、これまで、いくつもの料理を作ってきたという髙橋シェフ。
「野菜の火入れを行うことが多いですね。例えば、アーティチョークを生のまま並べて、蓋をしてオーブンに入れます。すると、10分ほどでいい状態に。香りと味もすべて逃さずに調理ができるので、蓋を開けると、凝縮されたアーティチョークの濃い香りが立ちのぼります。ほかにも、アスパラを調理してお出しすることも。その香り高さは、お客さんも驚くほどです」
「せっかく来てもらったので、これから、パスタをすこしだけ茹でます」
パスタでさえも、バーミキュラで茹でるのがお決まりだ。コースのうちの一品でもあるパスタは、その都度、お客さまの前で小麦粉をこねて、生地作りからはじめる。
「バーミキュラの鍋で調理すると、味わいが変わります。茹で上がったパスタからは、小麦の香りがしっかりと感じられる。さらに、小麦本来の甘みが引き出され、ほかの調理器具で茹でた場合との明らかな違いを感じます」
髙橋シェフのパスタは、生地の分量を調整することで弱火でも火が入る。小麦の香りを保ち、甘みが引き出されたパスタは、豊かで奥行きのある味わいに。
人は誰かの役に立ちたいと思う生き物。
料理を出して食べてもらう、その掛け合いの中で、生きていることを実感できる。
「これなら、なんとかできるかもしれない」
髙橋シェフが料理の世界へ足を踏み入れた理由は、意外にも消極的だった。
「20歳のときにワーキングホリデーでニュージーランドへ行き、生活のためにアルバイトをはじめた日本食レストランで、料理って面白いんだな、と思わせてくれた人がいました。その人と、まかないを作る機会があり、調理させてもらったのがパスタ。指示を受けながら、自分で手を動かして作ったパスタがとても美味しかったんです。君、いいよ、なんてその人からも言ってもらい、これならできるかもしれない、やってみようと思いました」
「若い頃は、格闘家になりたくて、極真空手を習いに行こうとしたこともありました。音楽を聴くことが好きだったので、ミュージシャンになりたいと思っていた時期も。結局それもなし崩しになり、やりたいことを見つけたくてニュージーランドへ。そこで偶然、料理のおもしろさを知り、この道に進みました」
「料理を始めてから感じるのは、料理は、こうして皆さんと気持ちを盛り上げていく作業だということ。音楽のライブや、スポーツと通ずるものがある。生ものなので、毎回どちらに勝敗が転ぶかわからない。そういうライブ感が好きなのかもしれません」
「今日はこれで良かったなと思います。今日出せるものは、これで以上になります。ありがとうございます」
「これで良かった」「これで良しとします」
調理中から会が終わる間まで、髙橋シェフは幾度となくこうつぶやく。
ひとりを選ぶということは、ひとりですべてできるけれど、裏を返せば、ひとりですべてを判断していくことでもある。
「ストイックだと言っていただくこともありますが、ただ、自分が納得するように動いているだけなんです」
お客さんに向けて、自分ができ得る最大限を出し切ったという事実のみが、自分を納得させられる方法。髙橋シェフにとって、生きていることの実感は、その日々の繰り返しだ。
――シェフの言葉は毎回、心に響く。同じく、嘘のない調理器具でありたい。
撮影に同行した、バーミキュラの開発を主導する土方智晴も身を引き締める。
目の前の人々を幸福で満たすべく情熱を傾ける料理人と、素材本来の味を感じられる料理の素晴らしさを、伝えていく使命に生きる調理器具メーカー。アプローチの方法は違えど、内に秘めた熱量は変わらない。
ふたつの職人魂の呼応は続いていく。
髙橋隼人シェフが
オーブンセーフスキレットで作るメニュー
オーブンセーフスキレットの良さを生かした、髙橋シェフご考案のメニュー2品を紹介します。
Recipe1
ビゴール黒豚リブロースのコトレッタ
Recipe2
パプリカのペペロナータ
PELLEGRINO
髙橋隼人
Hayato Takahashi
Profile
イタリア料理店『PELLEGRINO』を営むシェフ。1998年、ワーキングホリデーでニュージーランドへ渡り、日本食レストランでの就業を経て料理人を志す。帰国後は、国内のイタリア料理店で修業を積み、2009年3月、自身の店を持つことを決意し渡伊。帰国後、2009年に東京・西麻布に「PELLEGRINO」をオープン。2015年に恵比寿へ移転。
撮影/有高唯之
文/加藤久美子